The Diamond Dust

僕は蜃気楼を見ていた…

The Diamond Dust

by Unknowner

final Heaven Ⅳ のレビュー

final Heaven Ⅳ を購入したのでレビューしたいと思います。 

経緯

僕は普段ホームユースでSennheiser HD650 ,ポタでShure SE215 Special Edition を使っており(後者については紛失してしまいました。),前者は2003年発売から多くのオーディオファンの心を掴んできた開放型の定番で,濃密でウォームな低域再生に定評があり,一方で後者は某有名オーディオショップの売上ランキング上位の常連で,厚みのある低音が特徴の高コスパIEMとして、両機ともご存知の方も多いと思います。

最近になってから女性ボーカル(EGOIST,Aimer,anNinaなど)の楽曲を良く聴くようになり,紹介した両機の中域再生に不満を抱くようになり,数回の視聴を経て女性ボーカルの再生に定評のあるfinalのHeaven Ⅳ を購入するに至りましたので紹介する所存です。

 

final Heaven Series について

finalのHeavenシリーズは全機種がシングルBAという他者のイヤホンにない唯一無二の特徴を持っており,その自然な音楽再生に定評があり,個人的には「嵌まってしまった人は他に替えがないイヤホン」というイメージが強いですが,僕自身も音楽鑑賞を重ねるにつれ嵌まってしまい,他社のイヤホンを買う気になれなくなってしまった一人です。

値段の安い順にHeaven Ⅱ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅴ aging,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷと7機種展開されているHeavenシリーズですが,それぞれのサウンドからはしっかりとした個性を感じられ,音質諸々以前に音色に確かな違いがあります。

各機種の音色の違いは簡単に言うと「上位機種ほどより濃厚に,より立体的な音」といった具合で,解像度や定位感も上位機種ほど優秀です。

とはいえ必ずしも上位機種ほど全てのユーザーが良い音だと感じるわけではなく,例えば「Ⅵの濃厚な音よりもⅣのスッキリした音の方が好み」なんて人もいますし,Heavenシリーズが欲しい方はなるべく全機種を比較試聴した上で判断して頂きたいと思います。

 

Heaven Ⅳ

通常BAの音というと神経質で自然な音楽再生からは程遠いという偏見を持っている私ですが,Heaven Ⅳ のサウンドからはDDに似た自然で迫力ある音色を感じられました。(最近の製品でいうとCampfire Audio Orion もBAなのにDDの音がするとの呼び声が高く,女性ボーカルの再生に適しているあたりも似ていますね。)

筐体内の空気の流れを最適化するBAM(Balancing Air Movement)機構によって,DDのような迫力ある低音再生を可能としているらしく,その触れ込みに削ぐあわないどっしりとした低音を聴かせてくれます。

公式スペックは112dB/16Ωと非常に鳴らしやすく,スマホWalkmanなどのDAPへの直差しが想定された感度/インピーダンスであることを窺わせます。同じく高感度・低インピーダンスであるShure SE215 Special Edition と比較しても音量を取りやすく,僕のiPhone 5s では音量4で十分な音量を取れています。ポータブルアンプを常用する僕からするともう少し低感度・高インピーダンスの方がノイズ耐性が上がって嬉しいのですが,十分許容範囲でしょう。

 

デザイン

アルミ削り出しの細長いハウジング,きしめんと揶揄されることんもある平型ケーブルが目を惹くデザインです。やはり上位機種と比較すると質感で劣りますが,それでも同価格帯のSennheiser ie60 ,Onkyo E700m などと比較すれば十分高級感あふれる筐体で,女性にもマッチするデザインです。ただ,使用感に支障をきたすデザインであることも否定はできません。具体的には細長いハウンジングが人によっては装着疲れを引き起こし,平型ケーブルが酷いタッチノイズを生みます。(この平型ケーブルはタッチノイズを減らす構造となってるようですが,一体このケーブルのどこがタッチノイズが少ないのか理解に苦しみます。)

付属するケースは化粧箱風で高級感がありますが,表面がアルミ製のため非常に傷つきやすく,指紋も付きやすいため,実用性に著しく欠けると言わざるを得ません。自宅保存用にとっておいて,これとは別に外出用のケースを用意した方が無難です。

 

使用感

さすがにShure SE Series やWestone UM Pro/W Series ほどではありませんが,装着感は概ね良好です。ただし,奥まで押し込んで装着する設計になっているため,違和感や長時間の使用による装着疲れは起きるかもしれません。(僕が使う限りだと特に違和感や装着疲れは感じませんでした。)

3種類×4サイズのイヤーチップが付属されており,この中からユーザーは用途と装着感を考慮して選択することになります。標準装備のAタイプ,共振を抑えたBタイプ,装着感を向上させ低音を増強するEタイプの3種類があり,それぞれを装着した場合の音の違いについては「音質」の項で具体的に述べますが,僕の場合はホームユースでBタイプ,ポタ環境ではEタイプを使用しています。

耳にしっかりとフィットするため,敢えてComplyのイヤーチップや,茶楽音人のSpinFit,MonsterのSuper Tips を利用する必要性を感じません。(他社のイヤーチップと比較しての話であり,自らの好みにあったサードパーティ製のイヤーチップを流用するのも一つの手だと思います。)それだけユーザーの装着感に配慮した設計だと言えますし,付属するイヤーチップが自社開発である点からもfinal社の情熱とこだわりが感じられます。

 遮音性はEタイプを装着した場合十分に確保されますし,目立った音漏れもありません。

一方,タッチノイズの大きさは非常に気になります。タッチノイズの一番の解決法がShure掛けであることは有名な話ですが,ハウジングやケーブルの形状により,Shure掛けがかなりしにくいのが現状です。(左右逆掛けも試しましたが定位感などで不満を感じたためやめました。)自宅やカフェなどでじっくりと音楽を聴くのに向いたイヤホンと言えますが,どうしても外で聴きたいといった場合にはクリップなどで対策しましょう。

 

音質

一聴して感じられたのが「極めて生々しい中域」です。

まさにボーカリストの口元が目に浮かび,吐息や喉の渇きなども感じられるようなサウンドです。原音に忠実というよりも,エコーやリヴァーブを掛けて生々しさや透明感を強調したようなサウンドです。女性ボーカルの再生に定評のあるイヤホンですが,僕は女性ボーカルよりもハイトーンな男性ボーカルの方が得意な印象を受けました。また,同じ女性ボーカルの中でも相性の良し悪しがあり,具体的にはしっとりゆったり歌い上げるボーカルとの相性が良い一方で,爽快に元気一杯に歌い上げるボーカルとの相性はそれに劣るといった感じです。(加えて,あまり高すぎる声は合わないような気もします。)とはいえ,他のイヤホンと比較した場合,いかなる女性ボーカリストの声も相性が良いと言えるでしょう。

また,空間表現の秀逸さはさすがHeavenシリーズといったところです。(HD650のようなスモーキーな音色ではなく,濃厚さと透明感のバランスが上手い具合に取られている印象です。)

これによって,アコースティックギターやピアノ,ストリングスなどのバックサウンドもキッチリボーカルと分離して非常に生々しく聴こえます。一方,エレキギターや電子音などの非アコースティック楽器の音は相性が悪く,ボーカルに掛かったエコーでさえも違和感を覚えるほどです。そもそもHeavenシリーズに分離感や解像度を求めてはいけないのかもしれませんが,音数の多い楽曲は音が混ざってしまい破綻しているような気さえします。ですから,小編成のクラシックやバラード系のボーカル曲を聴くのには適していますが,大編成のクラシックや近年流行りのEDMとの相性は悪いでしょう。

中域に加え,高域の金管楽器やライドシンバルなども生々しさが際立ちます。ハウジングの形状もあり,かなり音の余韻を実感できます。が,超高域(ハイハットシンバルなど)はほとんど聴こえず,よく耳をすまさないと気づかないほどです。

中域,高域が好印象な一方で量・質ともに残念なのが低域です。

この価格帯に求められる音が低域が強めのポップス、ロック向けのサウンドカラーなのかもしれませんが,艶やかな女性ボーカルを心ゆくまで堪能したいユーザーにとっては,多すぎる低音は邪魔でしかありません。もう少し中域にフォーカスを当てたチューニングをして欲しかったと思います。

比較的スローで音数の少ないロックではドラムの音が心地よく響きますが(バスドラの溜めやスネアの張り具合なども感じられ,前方にタカタカとドラムの音が繰り広げられ,アコギが入ったバラード系のロックなんかは相性が良いです。),アップテンポな楽曲になった瞬間不安定さを露わにし,ドラムが壊れているのではないかと思うような安っぽいペシャペシャバコバコした音に凶変します。音の締まりもあまり感じられずごちゃごちゃボワボワした印象です。そもそもBAについては本来低域の再生には向いておらず,DDと比較してその再現性において劣るのは致し方ないことなのかもしれませんが,もう少し余裕をもって鳴らして欲しかったと思います。

加え同価格帯のIE60などとに比べ解像度,分解能に不満が残ります。音を分解してキッチリと鳴らす現代イヤホンの常識に当てはまらない個性的な機種と言えるのかもしれませんが,近年のシャキシャキしたアニソンとの相性はあまり良くないため不満です。

また,音場は広いものの定位が感じられず,その音がどこで鳴っているのかがまるでわかりません。バンドをやっている身からすると音を正確に把握する用途には向かないように思えます。

次にイヤーチップ変更に伴う音質の変化について述べますが,標準装備のイヤーチップ(Aタイプ)を基準とすると,Bタイプは開放型のヘッドホンを思わせるような広大なサウンドステージが魅力のサウンドで,Eタイプは低域が強めに感じられるフォーカスのしっかりとしたまとまったサウンドが魅力的です。個人的にはBタイプのサウンドに音質的優位性を感じられましたが,ロックを聴きたいとき,外出時などは遮音性を重視してEタイプを選択しても良いかと思います。一方,敢えてAタイプを選択する必要性はないように思えました。

 

ここまでかなり辛口でレビューしてきましたが,HeavenⅣの音色は全ての不満を押し殺してでも聴きたい魅力的なサウンドです。ゆったりしっとりとした女性ボーカルの楽曲や,小編成のクラシックなどがお好きな方に是非お勧めしたいモデルです。